ももたろうさんとであうまで さるへん   作:カトウヒロ吉  絵:都あきこ

ももたろうさんとであうまで
さるへん
作:カトウヒロ吉 絵:都あきこ

むかしむかし、あるやまの やまおくに、
さるたちの むらが ありました。
その むらには、たくさんの さるたちが すんでいました。

さるたちは、きに のぼって とった きのみを たべたり、
かわで つかまえた さかなを たべたりして くらしていました。

むらでは、こどもを そだてるのは めすの さるの しごと、
たべものを とってくるのは おすの さるの しごとでした。
だから、そのむらに すんでいる おすの さるたちは みんな、
きのぼりも かわおよぎも とくいでした。

ところが むらには、
きのぼりも かわおよぎも へたくそな おすざるが
一ぴきだけ いたのです。

その おすざるは、きは やさしくて、
むらの こどもや としよりの めんどうを よくみるのですが、
ちからは ぜんぜん つよくありませんでした。

きのぼりをすると、
きのみが ある いちばん うえまで もうすこし というところで、
ずるずると おちてきてしまいます。

さかなを つかまえようと かわおよぎをすると、
さかなが いる かわの まんなかまで いったところで、
おぼれてしまいます。

いつも、さいごの さいごで あきらめてしまって しっぱいばかり。
あとすこし というところで あきらめてしまうので、
いくら れんしゅうしても、
きのみも さかなも とれるようには なりませんでした。
「どうしたら とれるように なるんだべか…。」

きのぼりも かわおよぎも へたくそな さるは、
たべものを とってくることが できなかったので、
おすなのに たべものを わけてもらうしか ありません。
せなかを かいてあげたり、のみを とってあげたりするかわりに、
みんなから たべものを わけてもらっていました。

ある日、むらで いちばん えらい ぼすざるが
それを みて いいました。

「おい、おまえ。もう わしも がまんできん、
 おとこなら じぶんの くいもんくらい じぶんで とってこい、
 うっきー。」

きのぼりも かわおよぎも へたくそな さるは いいました。
「きのぼりも かわおよぎも、
 どれだけ れんしゅうしても うまくなんねえだ。
 おら、むらで るすばんして、
 としよりや こどもらを まもることにしてえだ。」

それを きいた ぼすざるは、
たいそう おこって いいました。

「むらの るすばんなら、もっと おとこらしい おとこに させるわい。
 じぶんの くいもんも とってこれん おとこは、
 この むらには いらん。でていけ、うっきー。」
「か、かんべん してくんろ。
 きのぼりも かわおよぎも、もっともっと れんしゅうするだ。
 このむらに いさせてくんろ。」
と いっしょうけんめい たのみましたが、
ぼすざるは きいてくれません。

「ならん。くいもんを とってこれるくらい つよくなったら、
 むらに かえってくるが ええ。さあ でていけ、うっきー。」

きのぼりも かわおよぎも へたくそな さるは、
むらを でていくしかありませんでした。
それをみている としよりや こどもたちは、みんな さびしそうです。

「ひとりじゃ くいもんも とれねえし、どうしたら いいんだべか…。
 どこか、ほかの むらを さがすべか…。」

そう おもいながら、とぼとぼ あるいて
ちょうど むらはずれまで きたころ、
一ぴきの めすざるが うしろから はしってきました。

「まってくんろ、まってくんろー。きゃっきゃっ。」

きのぼりも かわおよぎも へたくそな さるが うしろを みると、
そこには ぼすざるの むすめが いました。

ぼすざるのむすめは むらいちばんの きりょうよし。
むらの おすざる みんなの あこがれでした。

その ぼすざるのむすめが いいました。
「おめえ、これから どうするつもり だべか?」
「おら、きのぼりも かわおよぎも へたくそだで、
 このむらでは いきて いけん。
 べつの むらを さがそうかと おもってるだ。」

それを きいた ぼすざるのむすめは、
「だめだべ、だめだべ。
 おら、やさしい おめえには ぜったい かえってきてほしいだ。
 つよくなって、ぜったい かえってきてくんろ。
 そんで おらのことを よめに もらいにきてくんろ。」
と おおきな こえで いいました。

きのぼりも かわおよぎも へたくそな さるは、
これを きいて たいへん おどろきました。

「こ、こんな おらで いいべか?
 くいもんも とってこれん おらでも いいべか?」
「いまは ぜんぜん だめだ。おっとうも ゆるしてくれるわけがねえ。
 でも、やさしいうえに つよくなった おめえなら、
 きっと おっとうも もんくは ねえはずだ。」

きのぼりも かわおよぎも へたくそな さるは、
すこし かんがえて いいました。

「よし きめた。おら ぜったい つよくなって かえってくる。
 でっかい てがらをたてて
 おめえを よめに もらいに かえってくるだ、
 きゃっきゃっ、うっきー。」

きのぼりも かわおよぎも へたくそな さるは、
ぼすざるのむすめに ぜったいに かえってくると やくそくして、
げんきに あるきはじめました。

とおくでは、ぼすざるのむすめが てを ふってくれています。
「おめえのこと ずっと ずっと まってるでなー。
 げんきに かえってきてくんろー。」

きのぼりも かわおよぎも へたくそな さるは、
ぼすざるのむすめに みおくられて たびだちました。

「よし、ゆうきが でてきたべ。おらは もう にどと あきらめねえ。
 こんど かえってくるときは だれにも もんくを いわせねえだ。」

きのぼりも かわおよぎも へたくそな さるは、
もう さっきまでの げんきがない さるでは ありません。
ぼすざるのむすめを よめに もらうと きめてからは、
こわいものなど 一つも ありませんでした。

「さあて、どんな でっかい てがらを たてるべかな。」
そうおもいながら やまみちを あるいていると、
いぬを つれた ももたろうと ばったり であいました。

おしまい

桃太郎(ももたろう)さんと出会うまで 猿編 作:カトウヒロ吉 絵:都あきこ


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