かぐやひめ   文:カトウヒロ吉  絵:笠本真代

かぐやひめ 文:カトウヒロ吉 絵:笠本真代

むかしむかし、あるところに、
おじいさんと おばあさんが すんでいました。
おじいさんは みんなから 『竹とりじい』と よばれていて、
おじいさんが 山で きってきた 竹で 
おばあさんが かごや ざるを つくって くらしていました。

ある日、おじいさんが やまへ いくと、
竹やぶの なかで 
ぴかぴか きんいろに ひかる 竹を みつけました。

「なんと ふしぎな 竹じゃ。
 ひかる 竹など はじめて みたわい。」

おじいさんは、その竹を きってみることに しました。

すると、なんと 竹の なかには、
小さな おんなのこが すわって います。

「子どもが いない わしらに、
 きっと 神さまが さずけて くださったんじゃ。」

おじいさんは そのこを そっと だきかかえると、
いそいで いえに かえりました。

おじいさんと おばあさんは、
この子に 『かぐやひめ』と なまえを つけて 
だいじにだいじに そだてることに しました。

小さな 小さな かぐやひめは、
ふしぎなことに たった 三かげつで 
それはそれは うつくしい むすめに なりました。

その うつくしさと いえば、
くらい へやの なかが ぱあっと あかるくなるほどでした。

かぐやひめを そだてるように なってからというもの、
おじいさんが 竹やぶに いくと 
きんいろに ひかる 竹を よく みつけるように なりました。
その竹の なかには、いつも おかねが ぎっしり つまっているのです。
おじいさんの いえは たいそうな おかねもちに なっていきました。

「たけとりじいの いえには、
 このよの ものとは おもえないほど、
 うつくしい ひめが いるらしい。」
うつくしい かぐやひめの ひょうばんは、
いつしか くにじゅうに ひろまって いきました。

「かぐやひめを ぜひ およめに ください。」
たくさんの ひとが かぐやひめに けっこんを もうしこんできます。
けれど、かぐやひめは おじいさんに いいました。
「わたしは、およめになんて いきたくありません。
 おじいさんや おばあさんと いつまでも いっしょに いたいのです。」

けっこんは しないと、なんど ことわっても あきらめない 五にんの 
ひとが いました。いしつくりのみこ、くらもちのみこ、あべのうだいじん、
おおとものだいなごん、いそのかみのちゅうんごん、の 五にんです。

こまりはてた かぐやひめは、
「では、わたしの いう たからものを
 みつけてきてくれた ひとと けっこんします。」
といって、みたことも きいたことも ない しなものを 
五にんに つたえました。
「いしつくりのみこ さまは、ほとけさまが つかった 石のはち。
 くらもちのみこ さまは、ほうらい山に あるという、ぎんの ねっこに
 きんの くき、しんじゅの みがなる たまのえだ。
 あべのうだいじん さまは、もろこしに あるという、ひねずみの
 かわごろも。おおとものだいなごん さまは、
 りゅうの くびに さがっている 五しきに ひかる たま。
 いそかみのちゅうなごん さまは、つばめが もっている 子やすがい。」
かぐやひめは、むずかしい ちゅうもんを だして 
あきらめて もらおうと おもったのです。

ところが あるひ、いしつくりのみこが 石のはちを もってきました。
いしつくりのみこは、ほとけさまが つかった 石のはちなど 
もってこれる はずがないと、ちかくの おてらから 
石のはちを とってきたのでした。
「ほとけさまの 石のはちを もってきました。
 さあ、わたしと けっこんしてください。」
かぐやひめは、いしつくりのみこが さしだした 
石のはちを みて いいました。
「これは、にせものです。
 ほんものの ほとけさまが つかった 石のはちは、
 きらきら かがやいています。こんなに きたなくは ありません。」
いしつくりのみこが もってきた 石のはちは、
にせものと すぐに みやぶられて しまいました。

くらもちのみこは、ほうらい山が どこに あるかも しらないので、
たまのえだを とりに いけません。
そこで 六にんの しょくにんを やとって、にせものの たまのえだを 
つくらせることにしました。
みごとな できばえに まんぞくした くらもちのみこは、
さっそく かぐやひめの ところに やってきました。
「これが たまのえだです。ぎんの ねっこに きんの くき、
 しんじゅの みが なっています。さあ、わたしの ところに
 およめに きてください。」
かぐやひめは、たいへん りっぱな たまのえだをみて、
ことわることが できず、こまってしまいました。

そこへ、わいわいと 六にんの しょくにんたちが 
やってきて いいました。
「くらもちのみこが、おかねを はらってくれません。
 たけとりのじい、かわりに はらって ください。」

たまのえだは、にせものと わかって しまいました。

あべのうだいじんは おおがねもち でした。
けらいに たくさんの おかねを わたして、もろこし という くにに 
ひねずみの かわごろもを かいに いかせました。
たかい おかねを だして、もろこしで かってきた 
ひねずみの かわごろもは、きらきら ひかっていました。

あべのうだいじんは、けらいが かってきた かわごろもを もって 
かぐやひめの ところに やってきました。
「わたしは、とおい もろこしから、いま やっと かえって きました。
 これが、ひねずみの かわごろもです。
 さあ、わたしと けっこん しましょう。」
かぐやひめは、かわごろもを てにとって いいました。
「これが ほんものなら、ひに いれても もえることは ありません。
 たしかめて みましょう。」
かぐやひめが、かわごろもを ひのなかに いれると、
あっというまに めらめらと もえだしました。

けらいが かってきた、ひねずみの かわごろもは にせものだったのです。

おおとものだいなごんは、りゅうの くびにある 
五しきの たまを とってこいと、けらいたちに めいれいしました。
でも、けらいたちは みんな こわがって いきません。
「それなら じぶんで とってきてやる。りゅうを ころして
 五しきの たまを とってくるぞ。」
おおとものだいなごんは ふねに のって、
ほんとうに りゅうを さがしに いきました。

しかし、うみは あれくるい、かみなりが なって、
ふねは いまにも しずみそうです。
「りゅうが おこったんだ。
 うみの かみさまが おいかりになったに ちがいない!」
と みんなが さけびます。
おおとものだいなごんは、
「おゆるしください。にどと 五しきの たまが ほしいなんて
 いいません。」
といって にげかえり、
かぐやひめの ところには 二どと きませんでした。

いそのかみのちゅうなごんは、つばめが もっている 子やすがいを 
てにいれるため、たくさんの つばめの すの なかを さがしましたが、
さっぱり みつかりません。あるとき、
「つばめは たまごを うむときに、子やすがいを いっしょに
 うむそうだ。でも、いつのまにか 子やすがいは きえてしまうらしい。」
という うわさを ききました。
いそのかみのちゅうなごんは、つばめの すの そばに やぐらを くんで、
つばめが たまごを うむ ちょうど そのときに、
すの なかに てを いれました。
「あった、あったぞ!」
子やすがいを つかんだ しゅんかん、ちゅうなごんは、どすんと 
やぐらから おちてしまい、にどと たてなくなって しまいました。
そして、やっと てにした 子やすがいも 
かちかちになった つばめの ふんでした。

こうして、五にんとも 
かぐやひめと けっこんすることは できませんでした。

それから 三ねんの つきひが たちました。
そのころから、かぐやひめは つきを みあげては、
かなしそうな かおを するように なりました。
「かぐやひめや、どうしたのじゃ?
 つきを みると どうして かなしそうな かおに なるのじゃ?」
おじいさんや おばあさんが いくらきいても、
かぐやひめは おしえて くれませんでした。

十五やが ちかづくと、かぐやひめは つきを みて 
なみだを ながして なくように なりました。
「かぐやひめや、いったい どうしたのじゃ?」
「わけを はなして おくれ。」
すると かぐやひめは、なきながら いいました。
「ああ、いつまでも おじいさん おばあさんと いっしょに くらしたい。
 ずっと ふたりの おそばに いたいのです。」
「おればよい、おればよいじゃろう。」
おじいさんが いうと、
「でも わたしは、つきの みやこのもの なのです。
 こんどの 十五やに つきの せかいに かえらなければ なりません。
 つきの せかいから むがえが くるのです。」
と かぐやひめは いいました。

「つ、つきの みやこのもの じゃと?」
「つきの せかいに かえるじゃと?」
おじいさんと おばあさんが、たいそう おどろいていると、
かぐやひめは いいました。
「しんぱいさせる だけだと おもって、ずっと いえませんでした。」
おじいさんと おばあさんは 
かぐやひめを しっかり だきしめて いいました。
「おまえは わしらの 子じゃ。つきに なんて いかせるものか。」
「いつまでも ずっと いっしょに いておくれ。」

とうとう 十五やの よるが やってきました。
おじいさんは 二せんにんの さむらいたちで、
いえの まわりを まもらせました。
おじいさんと おばあさんは、いちばん おくの へやで、
かぐやひめを だきかかえます。
やがて、まんまるの つきが そらに おおきく かがやきはじめ、
あたりは ひるよりも あかるく なりました。
つきのほうから、てんにんたちが、くもに のって おりてきました。
さむらいたちが、ゆみを ひいて やを はなとうとすると、
からだが かたまって うごけなくなって しまいました。

すると、いえの とが すべて ひとりでに ひらき、
てんにんの こえが おじいさんの ところに きこえて きました。

「たけとりのじいよ、でてこい。さあ、ひめを わたすのだ。」

「かぐやひめは わしらの 子じゃ。」
「おねがいです。かぐやひめを つれて いかないで ください。」
おじいさんと おばあさんは ひっしに たのみましたが、
きいてもらえません。
かぐやひめの からだが、
かってに そとに すいよせられて いきます。

かぐやひめは、おじいさん、おばあさんのほうを みながら いいました。
「おじいさん、おばあさん、たすけて。いきたくありません。」
「かぐやひめや。わ、わしらも、いっしょに つれていって おくれ。」

かぐやひめが、てんにんの ところまでくると、
すべてを わすれて しまうという あまのはごろもを 
きせられそうに なりました。

「おじいさん、おばあさん、いよいよ おわかれです。
 ながいあいだ ありがとうございました。
 いつまでも おげんきで。きっと ながいきして くださいね。」

そういうと、かぐやひめは あまのはごろもを きせられ、
おじいさんのことも おばあさんのことも 
すべてを わすれてしまいました。

そして かぐやひめは、 
むかえにきた てんにんと いっしょに くもに のり、
ゆっくりと つきへと のぼっていってしまいました。

「おまえが いないのに、ながいき したところで、
 なにが しあわせなものか。」

おじいさんと おばあさんは、
かぐやひめが かえっていった つきを、
いつまでもいつまでも 
かなしそうに ながめて いました。

おしまい

かぐやひめ 文:カトウヒロ吉 絵:笠本真代


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