浦島太郎(うらしまたろう)   文:カトウヒロ吉  絵:堀江聡美

浦島太郎(うらしまたろう) 文:カトウヒロ吉 絵:堀江聡美

むかしむかし、あるところに、
『うらしまたろう』という わかものが おりました。

たろうは、としおいた お母さんと ふたりぐらし。
まいにち うみへ さかなを とりにいっては、
それを うって くらしていました。

ある日のこと。
さかなを とりに いこうと、はまべを あるいていると、
子どもたちが なにやら わいわい さわいでいるのを みつけました。
よく みると、小さな かめを ぼうで つついたりして、
あそんで いました。

「こらこら、よわいものを いじめちゃ いけないよ。
 にがしてやりなさい。」

こどもたちは かめを おいて はしって にげていきました。

「もう にどと つかまるなよ。」
たろうは、かめを そっと うみに はなして やりました。

しばらくして、たろうが うみで さかなを とって いると、
大きな かめが めのまえに うかんで きました。

「たろうさん、このまえは 小さな かめを たすけてくれて
 ありがとうございました。
 おれいに りゅうぐうへ おつれします。
 わたしの せなかに のってください。」

たろうは、
いつもいつも いってみたいと おもっていた りゅうぐうに いけるので、
わくわくしながら かめの せなかに のりました。

かめは たろうを せなかに のせて、
どんどん どんどん うみの なかに もぐって いきます。

「みえてきましたよ。あれが りゅうぐうです。」
りゅうぐうは、あおい みずの むこうに、
それはそれは うつくしく きらきらと かがやいていました。

りゅうぐうに つくと、
きれいな おひめさまが たろうを でむかえました。

「うらしまたろうさま、ようこそ いらっしゃいました。
 わたしは おとひめ といいます。
 どうぞ ゆっくりと あそんでいって ください。」

おとひめさまは、このよの ものとは おもえないほど
きれいな おひめさまでした。

たろうの まわりを、
いろとりどりの さかなたちが まいおどります。
めのまえには たべたこともない ごちそうが ならんでいます。
たろうは おとひめさまと、
ゆめのような たのしい まいにちを すごしました。

「なんて きれいなんだろう。」
「なんて おいしいんだろう。」
「なんて たのしいんだろう。」

たろうは いつしか 
ときの たつのも わすれて いました。

ある日 おとひめさまが たろうに いいました。
「きょうは あなたに、いろいろな けしきを おみせしましょう。
 きっと おどろきますよ。」

たろうが つれていかれたのは、
おおきな とびらが よっつある へやでした。

「どうぞ あけてみて ください。」

ひがしの とびらをあけると、
そこは はるの けしきでした。

さくらや うめの はなが さきみだれ、
うぐいすも ないています。

「うみのそこ なのに
 はるの にわがあるなんて。
 なんとも ふしぎな もんだなあ。」

みなみの とびらを あけると、
そこは なつの けしきでした。
くさや きは、あおあおとした みどりいろで 
せみが ないています。

にしの とびらを あけると、
そこは あきの けしき。
いなほは こがねいろで 
やまの もみじも まっかに そまっています。
ぴいひゃら どんどんと まつりの おとも きこえてきました。

さいごに きたの とびらを あけると、
そこは ゆきが ふりつもる ふゆの けしきでした。

たろうが すんでいた ふるさとの うみが みえます。

「ああ、おっかさんは どうしているだろう。」
たろうは、お母さんの ことが きゅうに しんぱいに なり、
いえに かえりたく なって きました。

たろうは おとひめさまに いいました。
「もうそろそろ、かえりたいと おもいます。」

それを きいて、おとひめさまは いいました。
「どうか、もうしばらく いてください。」
「でも、おっかさんに なにも いわないで ここへ きてしまいました。
 おっかさんも きっと しんぱいして まっているに
 ちがい ありません。」

たろうの きもちが かわらないことが わかると、
おとひめさまは かなしそうに いいました。
「では、この たまてばこを もっていってください。
 これを もっていれば、また りゅうぐうへ もどって これます。
 でも けっして ふたを あけては いけませんよ。」

たろうは、たまてばこを たいせつに かかえると、
かめの せなかに のりました。

はまべに つくと、むらの ようすが すこし ちがいます。
しっている ひとが ひとりも いません。

いそいで いえに かえると、
そこは くさが ぼうぼうで、たろうの いえは ありませんでした。
「おっかさんは、どこに いったんだろう。」

たろうは、ちかくにいた おじいさんに きいてみることにしました。
「ここらへんに うらしまの いえは ありませんか?」

「うらしまじゃと? そういえば むかし きいた ことがある。
 たろうと いう むすこが おって、
 うみに でたきり かえって こんかった そうじゃ。」

「それは いつの はなし ですか?」
「もう、三びゃくねんも まえの はなしじゃ。」
「さん、三びゃくねん!」

たろうは、あまりのことに はまべに すわりこみ、
ぼんやりと とおくの うみを みつめていたした。
「りゅうぐうに いたのは、ほんの しばらくだと おもっていたけど、
 三びゃくねんも たって いたのか。
 おっかさんも しんぱいしたまま しんでしまったに ちがいない。」

たろうは あまりの さびしさに、
おとひめさまとの やくそくも わすれて、
たまてばこの ひもに てを かけました。

すると たまてばこの なかから、
三ぼんの しろい けむりが たちのぼり、
たろうは あっというまに 
かみのけも ひげも まっしろな おじいさんに なってしまいました。

おじいさんになった たろうは、
りゅうぐうでの たのしい じかんや、
おとひめさまのことを おもいだしながら、
いつまでも ぼんやりと 
うみの むこうを ながめていました。

おしまい

浦島太郎(うらしまたろう) 文:カトウヒロ吉 絵:堀江聡美


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